2009年の1月、私は『New England Journal of Medicine』の編集委員会に出席するためアメリカのボストンを訪れました。現地で開かれたミーティングで、前年10月に欧米の若手の医師・医学生が、将来の医学雑誌について議論した結果の報告を受けました。
その結果、医師として自己を向上させていく上で何が重要か、2日間の議論の結論は、「お金ではなく時間が大切だ」、「手短に知識を習得する新しいツールが必要とされている」というものでした。このように教育手法も変化し、教育に関するイノベーションの必要性が昨今高まってまいりました。また本邦では、4人に1人が65歳以上の日本の高齢化社会という時代背景の中で、がん医療の取り組みも真摯にがん関連学会で議論されるようになりました。その結果として『がん医療を専門とするチームスタッフ育成のためのeラーニングプログラム』は、まさにこうした時代の要請に応える大きな一歩であると期待されます。
平成23年から平成25年の3年間、厚生労働省の支援をいただき、日本癌学会、日本癌治療学会、日本緩和医療学会、 日本サイコオンコロジー学会、日本病理学会、日本放射線腫瘍学会、日本臨床腫瘍学会、国立がん研究センター、日本がん治療認定医機構という各専門学会・機構の絶大なる協力を得て、がん医療の基本から各専門分野における最先端の情報まですべてをカバーするeラーニング事業が発足いたしました。
eラーニングの方向性や教育プログラムについて、各学会の代表者からそれぞれの立場の意見をいただき、演者やコンテンツ等が構築されるようになりました。eラーニングの基本的理念として、普段診療に追われてなかなか学習の時間がとれない若いメディカルスタッフのみでなく、各分野の学会認定を取得した後も積極的に学習を進め、更にレベルの向上を目指す専門医の方々にも大いに活用していただきたいと思います。そして、医師以外の医療福祉の専門職の方々にも積極的に参加していただければと考えております。
厚生労働省の支援事業が平成25年に終了し、日本癌治療学会西山理事長をはじめ理事各位、ならびに参加関連学会代表者のご理解を得て、新たに事務的な対応と財政的支援を含めて、学会内に事務局を設置させていただくことになりました。
今後のeラーニングのコンテンツや各学会推薦の講演者の方々と共に、常にがん医療教育を受ける方々の目線でイノベーションを継続していく所存でありますので、関連各位の皆様にはこれからもご支援、ご指導のほどお願い申し上げます。
国際医療福祉大学学長。慶應義塾大学医学部卒。外科学(一般・消化器外科)専攻、医学博士。慶應義塾大学名誉教授。Harvard Medical School, Massachusetts General HospitalにFellowとして2年間留学。帰国後、杏林大学第1外科講師、助教授、教授を経て慶應義塾大学医学部外科学教授に就任。その後、副病院長、病院長、医学部長を経て現在に至る。
第100回日本外科学会会長、第6回国際胃癌学会会長、第3回国際センチネルノード学会会長、第42回万国外科学会会長を歴任し、現在は国際消化器外科学会会長、国際センチネルノード学会会長を務める。
万国外科学会、英国王立外科学会、アメリカ外科学会、イタリア外科学会、ドイツ外科学会、ドイツ消化器外科学会およびハンガリー外科学会、ポーランド外科学会名誉会員。ハンガリー・センメルワイス大学および、ポーランド・ヴロツワフ医科大学名誉医学博士。New England Journal of Medicine編集委員。日本学術会議(19、20、21期)会員(第二部副部長)、ヨーロッパ科学アカデミー会員、文部科学省文化審議会委員などを歴任。